高校入試の「個性重視・多面的評価」への変化

~生徒・保護者目線で考えるメリットとデメリット~

長年学習塾で高校受験生を指導してまいりましたが、ここ数年で入試制度が劇的に変わりました。従来の「学力試験一点勝負」から、調査書(内申点)、面接、作文・小論文、プレゼンテーション、グループディスカッション、実技試験、資格・検定の活用など、「多面的な評価」へと大きく舵が切られました。

さらに「特色化選抜」も増え、「個性を重視する」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。

この変化を生徒と保護者の視点から冷静に見つめ直すと、確かに大きなメリットがある一方で、決して軽視できないデメリットも存在します。

メリット ~「自分らしさ」を武器にできる時代になった~

  1. テストでは測れない強みが評価される
    英検、数検、部活動の実績、ボランティア経験、プログラミング作品、科学研究など、学力試験では絶対に見えてこなかった生徒の努力や才能が正当に評価されるようになりました。
    →「テストは苦手だけど、人の前で話すのは得意」「ロボット製作が大好き」という生徒が、偏差値では届かなかった高校に合格する事例が確実に増えています。
  2. 中学校生活全体が意味を持つ
    「内申点」が重要になったことで、定期テストだけでなく授業態度、提出物、委員会活動、部活動すべてに意味が生まれました。
    →「3年間コツコツ頑張ったことが報われる」という実感が、生徒のモチベーションを高めています。
  3. 将来に直結する力が鍛えられる
    面接やプレゼンテーション、グループディスカッションを通じて、表現力・論理的思考力・協調性が自然と身につきます。
    大学入試や社会に出てから本当に必要な力が、中学時代から意識されるようになったのは大きなプラスです。

デメリット ~見えない格差と過度な負担が生まれている~

  1. 家庭の経済力・情報力による格差が拡大する
    英検・漢検などの外部検定、ピアノ・水泳・書道などの検定、海外経験、ボランティア活動……これらを充実させるには、お金と時間がかかります。
    塾や家庭教師をつけて小論文・面接対策をする生徒と、そうでない生徒の差は歴然です。
    →「個性重視」と言われながら、実態は「親の経済力・情報リテラシーが重視されている」ケースが多々あります。
  2. 評価の「恣意性」が増し、不透明感が強い
    面接官や評価者の主観が入りやすいため、「先生に好かれた子が有利」「学校の好みに合わせた受け答えをさせられた」など、公平性への疑問が絶えません。
    保護者からも「点数で決まっていた時代の方がまだ納得できた」という声をよく耳にします。
  3. 生徒への負担が極端に増えている
    ・定期テスト対策・内申点のための授業態度・提出物・部活動・外部検定取得・面接・小論文・プレゼン対策
    これらをすべて高いレベルでこなすことは、ほぼ不可能です。
    →睡眠時間を削り、心身症や不登校になる生徒も増えています。
    「個性を伸ばす」と言われながら、多くの生徒が「個性を殺してでも内申を取らなきゃ」と必死になっています。
  4. 「本当の個性」は評価されにくい現実
    学校側が求める「個性」は、結局のところ「学校が望ましい生徒像」に収れんしやすいものです。
    「突出した変わり者」「学校のルールに馴染みにくい個性」は、逆にマイナス評価されかねません。

結論 ~理想と現実のギャップを埋めるために~

「個性重視・多面的評価」への転換は、画一的な学力試験だけでは見えなかった生徒の良さを拾い上げる、素晴らしい方向性であることは間違いありません。

しかし現状では、経済的・情報的な格差の拡大、評価の不透明さ、生徒への過剰な負担という深刻な副作用も生んでいます。

私たち塾講師にできることは、「学校が求める個性」ではなく「その子自身の強み」を見つけて伸ばすことです。
中でも「学習面での強み」を伸ばすことです。

保護者の皆様には、どうか「個性重視」という言葉に踊らされすぎず、お子さんが「健全に、持続可能に」頑張れる環境を一緒に作っていただければと思います。

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